WP_Ch.1_哲学の読み方 How to Read Philosophy
■Chapter 1 哲学の読み方 How to Read Philosophy
第1章まとめ QUICK REVIEW : Reading Philosophy (p.20)
1. 哲学とは、何が君に特定の信念を持たせるのかを第一に考慮するものではない。哲学とはそれらの信念が持つに値するものかどうかに注目するものである。
2. 哲学は君が君自身の世界観 worldview を評価するのに役立つ。
3. 哲学を通じて、君の信念は真にして確かに君自身のものとなり、そして君は君自身の人生をもっと十分にコントロールできるようになる。
4. 哲学では、論証 argument とは別の諸命題と一緒になったひとつの命題または主張 a statement, or claim であり、別の諸命題はひとつの命題を根拠付ける(=支持する) support ように意図されたものである〔本書では proposition という単語は使われない。代わりに文 statement が使われており、ここでは命題と同じ意味で使われていると理解する〕。
5. 哲学を生産的に読むために必要なのは、オープンマインド、能動的かつクリティカルなアプローチ、そして結論と諸前提の特定である。
6. アウトラインを描いたり、言い換えしたり、要約することによって、哲学の文章に対する君の理解は拡張し得る。
【p.3ざっくり和訳】哲学を書くには、君はまず哲学が読めなければならない。本当に哲学を読むためには偏見を捨てて取りかからなければならない。また、諸々の時代の中で数え切れない人々が哲学に登場したことを見る機会を君は持とうとしなければならない。哲学的なアイデアは世界を、数え切れない人々を、哲学者以外も含めて変革してきたからだ。哲学は諸々の文化に刺激を与え、歴史を駆動させてきたのである。君はあらゆる問いが問うて来たものを理解しようとすべきである。哲学者たちは哲学の学びがかかずらうに値するものだと君に告げるだろう。しかし、その言葉を真に受けてはならない。君は君自身の概念的な縄張りを探索すべきである。第一章は君が学び始める助けになるよう設計されている。
哲学とはなにか? What Is Philosophy?
哲学がなんであるにせよ、それはひとつの原理であり、ひとつの探求領域である。我々の人生、世界観、あらゆる学問的な原理を構成する無数の信念──最も根本的な種類の信念の吟味に哲学は関わる。哲学は他の学問よりもさらに深く精神の地位や道徳について探求する。
哲学は或る信念が信じるに値するものかどうかに焦点を当てる。その信念が受け入れるに値するならば、それに相応しい良い理由があるはずだ。
ときどき、人々は哲学を狭い意味、すなわち世界観 worldview の意味で使う。世界観は人生における重要なテーマの広い領域を意味づけるものだ。世界観は何が存在するか、何がなされるべきか、何を知り得るかを定義する。我々はみな一つ以上の世界観を持っており、すべての世界観を棄却するという世界観すら世界観である。そして重要な問いは我々が世界観を持っているか否かではなく、どのような世界観が持つに値するかである。すなわち、我々の世界観を樹立させている諸々の信念は真であるかどうかが重要なのである。我々の人生が我々の哲学に沿うからこそ我々の世界観は良きものでなければならない。「哲学」を広い意味で使うことは狭義の哲学〔=世界観〕を評価する最も優れた方法である。
哲学を読解する Reading Philosophy
Rule 1-1 オープンな心構えでテキストにアプローチせよ Approach the Text with an Open Mind
Rule 1-2 能動的かつクリティカルに読解せよ Read Actively and Critically
Rule 1-3 最初に結論を特定し、それからその結論を支える諸前提を特定せよ Identify the Conclusion First, Then the Premises
Rule 1-4 論証の輪郭を描き、言い換えをおこない、要約せよ Outline, Paraphrase, or Summarize the Argument
哲学読解における5つのよくある誤り
1. 技術的報告や小説を読むのと同じやり方で哲学を読むこと。
2. テキスト上の論証や著者に偏見を持つこと。
3. 読んだものの評価をし損ねること。
4. 速読や飛ばし読みをやろうとすること。
5. 能動的かつクリティカルに読まないこと。
Rule 1-5 論証を評価し、仮の判定を構成せよ Evaluate the Argument and Formulate a Tentative Judgment
言い換えや要約を執筆する Writing a Paraphrase or Summary
抜粋 PASSAGE
論点をより明確にするために、別の事例を考えてみましょう。ある社会では、人々は大地が平らだと信じています。一方、私たちの社会などでは、人々は大地が(おおよそ)球状であると信じています。単に人々が異なる意見を持っているという事実から、地理的に「客観的な真理」はないと結論するのはおかしいことでしょうか? もちろん違います。私達はそのような結論を決して導かないでしょう。なぜなら、私たちは、ある社会のメンバーが単に世界に関する信念で間違っている可能性があると理解しているからです。世界が丸いならば、全員がそれを知っていなければならないと考える理由はありません。同様に、道徳的な真実があるならば、全員がそれを知っていなければならないと考える理由もありません。文化の違いに関する主張〔CDA〕──それは諸々の社会が道徳性について同意しないから客観的道徳性は存在するはずがないと言うのですが──における基本的な誤りは、単に人々がそれについて異なる意見を持っているという事実から、その主題についての実質的な結論を導こうとしている点です。
To make the point clearer, consider a different matter. In some societies, people believe the earth is flat. In other societies, such as our own, people believe that the earth is (roughly) spherical. Does it follow, from the mere fact that people disagree, that there is no "objective truth" in geography? Of course not; we would never draw such a conclusion because we realize that, in their beliefs about the world, the members of some societies might simply be wrong. There is no reason to think that if the world is round everyone must know it. Similarly, there is no reason to think that if there is moral truth everyone must know it. The fundamental mistake in the Cultural Differences Argument (which says that because societies disagree on morality there must be no objective morality) is that it attempts to derive a substantive conclusion about a subject from the mere fact that people disagree about it.
言い換え1 PARAPHRASE 1
Rachelsは、道徳的な価値についての異なる社会間の意見の不一致が、それ自体では客観的な道徳が存在しないことを示していないことを示そうとしています。〔例えば〕ある社会では、人々は大地が平らだと信じています。私たちの社会では、大地が球状であると信じています。しかしこの対立する意見のケースは、地理に関する客観的真理が存在しないことを示しているわけではありません。こうした意見の対立が起こるのは、一部の人々が誤った信念を持っているためかもしれません。なぜなら、世界が丸いならばそれを認識しなければならないと考える理由があるでしょうか? 同様に、もし客観的な道徳的真理が存在するなら、それを誰もが知っていると思う根拠はありません。文化の違いの主張における誤りは、人々がそれについて異なる意見を持っているという単なる事実から、何かについての結論を導けると思うことです。
Rachels tries to show that disagreement among societies about moral values does not, in itself, show that there is no such thing as objective morality. In some societies, people believe that the earth is flat. In our own society, we believe that the earth is spherical. This case of clashing views, however does not show that there are no objective truths about geography. It is possible that such disagreements happen because some people have false beliefs Why should we think that if the world is round everyone must realize it? Likewise, if there is such a thing as objective moral truths, we have no evidence to think that everyone would know these truths. We must conclude that the mistake in the cultural difference argument is thinking that we can draw a conclusion about something from the mere fact that people disagree about it.
言い換え1は正確ではあるが原文の単語やフレーズに近過ぎる。そのため、言い換え1は(1)単なる逐語的な反復で再考する機会を台無しにしており、また、(2)引用符なしに文字通り繰り返すことは剽窃 plagiarism につながるのでよくない。言い換え2はもっと良いパラフレーズである。
言い換え2 PARAPHRASE 2
Rachelsは、文化の違いの主張が根拠を持たず、実際には誤りに基づいていることを示しています。彼は、社会が道徳的な判断について対立する意見を持っているという事実から、客観的な道徳が存在しないと結論づけることはできないと主張しています。彼はその立場を裏付けるために、無関係な分野である地理学からの例を挙げています。ある社会では大地は平らだと考え、他の社会では球状だと考えています。このような異なる意見から何を結論づけることができるでしょうか? 地理的な事実について人々が異なる意見を持っているからといって、客観的な地質学的な事実が存在しないと結論するのは不合理でしょう。結局のところ、Rachelsは異なる社会の人々は「単に間違っているかもしれない」と述べています。同様に、道徳的な対立は単に、一部の人々が誤解している可能性があり、一部が誤解していない可能性があるだけかもしれません。したがって、文化の違いの主張を受け入れる十分な理由はないと結論づけています。
Rachels shows that the cultural differences argument is unfounded and is, in fact, based on a mistake. He argues that we cannot infer that objective morality does not exist from the fact that societies have conflicting views about moral judgments. To make his case, he uses an example from an unrelated field, geography. Some societies think the earth flat; some, spherical. What can we conclude from such a disagreement? It surely would be illogical to conclude that because people differ on geographical facts there must be no objective geological facts. After all, Rachels says, people in different societies "might simply be wrong." Likewise, moral disagreements may simply indicate that some people are mistaken and some are not. Therefore, there is no good reason to accept the cultural difference argument.
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